フィス・グレイブ > またテロか……
 +唯葉+ > 最近、多いにゃー。
 ヴォルカノ > そういえばそんな気もしますね


 みんながギルチャで世間話をしているのを俺はソロでレベル上げをしながら聞く。レアアイテムをついに手に入れた云々、露店で何がいくらで売れた云々、レベルが伸び悩んでる、あれが欲しい、これが高い、テロがウゼぇPKがウゼぇ、云々。毎日が変わりない光景。退屈な現実世界を抜け出して、同じく変わりのない別の世界に逃避しているという矛盾がそこにはある。唯一変わっている点があるとすれば、ヴォルカノの接続時間が日に日に多くなってきているということくらいか。

 ヴォルカノ > あのー、会長、相談なんですけど……
 フィス・グレイブ > ん?
 ヴォルカノ > PKプレイヤー退治、とかってやらないんですか?


 一瞬、無言となる。

 ケヴィン > ん、何何。
 フィス・グレイブ > ……あー、まぁ気持ちは分かるんだけど、PKプレイヤーをPKしたら俺らも同じじゃんって言う話もあってw
 ヴォルカノ > 目的が違うじゃないですか。俺らはあくまで保身のためで、みんなのためじゃないすか。
 フィス・グレイブ > んんー……。
 ケヴィン > 何だったら、俺付き合おうか。
 +唯葉+ > あ、いや、ケヴィンさん……w
 ヴォルカノ > あれ、本当すか?
 ケヴィン > 一回くらいならやってもいいんじゃないか。あとはもう少し人員を募れば。
 フィス・グレイブ > ……やめようよ、そういうのはさ。やっぱり、PKに不快感を持ってる人ってのも少なからずいるし……。
 ヴォルカノ > 大丈夫ですよ、僕たち個人の行動ですから。心配いりませんって。
 ケヴィン > そんなに気に病む必要もないと思うぞ?
 フィス・グレイブ > ……まぁ、いろいろ気をつけてね。
 ヴォルカノ > 唯葉さんとかLenaはどうすか?
 +唯葉+ > あー、いや、あたしはいいわw
 Lena > 私も遠慮しておきます……
 ヴォルカノ > じゃ、行きますか。どこに集合します?


 いつの間にか、その場は確実にヴォルカノによって仕切られていた。ふたりは街の入り口で公開チャットを出して人員を募り、PKプレイヤーのPK、いわばPKPKはひっそりと行われた。

 パピ=ヨン > お、いた
 ヴォルカノ > よっしゃあー!w
 椎原みるく > いけーw
 ヴォルカノ > ……あれ、終わったよ。
 椎原みるく > 案外簡単でしたね。
 パピ=ヨン > レベル低かったのかな
 ケヴィン > ……もう2,3匹行けるな。
 ヴォルカノ > おぉ、心強いw
 椎原みるく > どんどん行きましょうかw


 そのときの会話のログを、後で下平がメールで俺に送ってくれた。そこで見たPKプレイヤー狩りはさながら、ほんのささやかな子供の遊びのようだった。無邪気で楽しげな、純粋で、穢れのない。結局この日、彼らは苦戦しながらも合計十九人のPKプレイヤーたちを狩ることに成功していた。感覚はレベル上げの作業とほとんど変わらないようだった。ただその倒す対象のグラフィックが、たまたまキャラクターの形をしていたというだけだ。

 ヴォルカノ > ただいまーw
 旅砂 > あれ、どこか行ってたんですか?
 ケヴィン > うん、PKPKw
 旅砂 > え、それって……w
 フィス・グレイブ > 僕は止めたんだけど……。
 ヴォルカノ > でも、なんだかんだ言って楽しかったですよ? 他の人も喜んでくれましたし。
 フィス・グレイブ > も、もうやらないでよ?w
 ヴォルカノ > え、まさかぁ。やりますよw


 俺は、ヴォルカノが活き活きと話す様子を、ただ黙って眺めている。




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