夜に電話が鳴る。下平からだった。
『あのさ、おれEO始めたいんだけど……』
「は?」
 耳を疑う。さっきはさんざん馬鹿にしてたくせに、と思いつつ、とりあえず了解しておいて今の状況を下平から聞く。
 話によると、下平のほうはすでにキャラを作成し終え、最初のチュートリアルの初心者の館をクリアしてもうフィールドに出てきているらしい。俺は電話の子機を小脇に挟みつつ、ちょうど付けていた自分用のデスクトップパソコンからEOに接続する。パッチの当てられている間にふと時計に目をやる。夜の十時すぎ。まずいなと思う。そろそろ厨房どもの活気付くときだ。
 電話で場所を確認し合いつつ、首都の南の草原にある大岩の前で待ち合わせをする。

 Lena > あ、いたいた
 ヴォルカノ > うぃーす


 下平のキャラ名は「ヴォルカノ」だ。俺たちはひとまず適当にヴォルカノのレベル上げをするために、別のマップへ移動する。

 ヴォルカノ > あー、そうだ。ギルドって入れるの?
 Lena > え、こっちのですか。
 ヴォルカノ > そうそう。なんかそういうのも入ってみたくて。あのケヴィンさんとかいうのとかもレベル上げ手伝ってくれそうな気がするし。
 Lena > うーん……いや、まぁ一応連絡は取ってみますけど。でもまだ分かりませんよ
 ヴォルカノ > うぃ、了解ー


 とりあえず、フィールドに出てきたばかりのヴォルカノがPKプレイヤーに見つかってブチ殺される、みたいな真似はなかったようなのでひと安心する。まぁ、最近はああいう奴らもたまにしか姿を現さなくなったので、実はそこまで心配しなくても良かったりするが、まぁ用心するに越した事はない。
 パーソナルウィンドウでギルド情報を見ると、今の時間帯なら割と多くのメンバーがログインしているみたいだった。夜とは、様々な人々が自らの務めを終えて帰ってくる休息の時なのだ。

 Lena > こんばんはですー
 +唯葉+ > おばんどすーw
 旅砂 > あれ、どうもです
 ゴルァざえもん > おはー
 ケヴィン > こんにちは
 旅砂 > お、おは?w
 +唯葉+ > そこはスルーでしょw
 ゴルァざえもん > ひどいやみんな!w
 夢見蔓 > あれ、どもですー。
 ゴルァざえもん > ……ていうか最近、オイラの扱いがみるみるぞんざいになっていってるような……?w
 フィス・グレイブ > おや、うっす(遅
 夢見蔓 > 今更じゃないですか……w>ゴルァ
 +唯葉+ > 日ごろの行いでしょ?w
 Lena > あ、会長。私の友達が、なんかうちのギルド入りたいって言ってきたんですけ ど、構わないですか?
 フィス・グレイブ > ……およ、まじですか。大歓迎っすよ?
 +唯葉+ > あれま、新メンバーですか。
 ゴルァざえもん > 新メンバーキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!
 +唯葉+ > ハイうるさいよーw
 旅砂 > 新メンバー加入ってことは、もうすぐだれか卒業とかですかね?w
 Lena > そこでゴルァさんが……w
 ゴルァざえもん > オイラ卒業すか!ソロ活動すか!w
 ケヴィン > www


 ギルドメンバーの人たちはいつもの調子。まぁともかくOKの返事はもらえたので、さっそく下平のキャラにギルド加入要請を出して、ヴォルカノはあっさりと俺たちの仲間入りを果たしてしまう。本当にあっさりと。

 ヴォルカノ > ……ヴォルカノっていいます。皆さんこれから、どうぞよろしくお願いします。
 +唯葉+ > どうも、はじめましてぇーんw
 旅砂 > こちらこそーよろしくですー。
 フィス・グレイブ > ようこそようこそ。
 夢見蔓 > 初めまして、よろしくお願いしますー
 ゴルァざえもん > ゴルァざえもんと申します!w
 ヴォルカノ > ご、ごるぁざえもん……ですか?w
 ゴルァざえもん > オゥヨ!(何故か爽やかに
 夢見蔓 > ……あ、この人デフォでこんな感じなんで、適当にスルーしちゃっていいですよ?w
 ゴルァざえもん > そんな殺生なッ!w
 ケヴィン > ケヴィンです、どうぞよろしく。
 +唯葉+ > ……あれ、友達だっていうから何だと思ったら、男の方でしたか。
 Lena > そうですよ?w
 フィス・グレイブ > ……なるほど、そういうことか……w
 Lena > 何かとんでもない誤解をw
 旅砂 > うわ、テロだ
 +唯葉+ > ……よいよい、皆まで言うなw
 フィス・グレイブ > え、テロ?
 ゴルァざえもん > マジでかw
 旅砂 > 首都に石砕きPK出現……
 +唯葉+ > うわ、本当だ、あたし死んだ


 切っていた電話が再び鳴る。
『テロって?』
「あぁ、ときどきあるんだよ」と俺は答える。「捨ててもいいアカウントでキャラ作って、イタズラ目的で人のいるところに突っ込んでくるんだ。石ってのは『紅い聖石』っていういわゆるモンスター召還アイテムで、一緒にレベルの高いモンスター呼んだりしてタチが悪い……あぁいや、まぁPKプレイヤー事態が突っ込んでくるって事態が、最近じゃそもそも本当に稀なんだけど」
 下平は『ふーん……』とだけ言い、それから電話は切れた。そして下平は、再びヴォルカノとしてまたギルチャに集中し始める。俺はベッドの上に子機を投げると、またふと時計に目をやる。いつの間にかとうに日付が変わっている。
 俺は気が変わり、仲間たちにさよならを告げる。メンバーから挨拶の文字の嵐を受け、そのままウィンドウを閉じる。ヴォルカノはこれから他の数人の仲間と一緒に、別マップにレベル上げに繰り出すみたいだった。




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