太陽が高くなり始めると、涼しげだった雨上がりの朝から一転、カッと暑くなりだした。メインストリートを歩く人の流れは昨日と変わらない。南国風の樹木の並ぶ歩道に、どこか妙な印象を覚えながら、プーに連れられてやっとホテルの前まで戻ってくると、そこにホテルの入り口の木陰で涼みながらぼくのことを待っているネスとポーラがいた。ぼくの姿を見つけ、「ジェフ!」とネスが大声で叫ぶ。2人は立ち上がって、ぼくたちの元に駆けてくる。
 ネスはぼくに駆け寄ってくるなり、口を開く。
「ジェフ、ホントにどこ行ってたんだよ! 心配したんだぜ」
「……ごめん」
「とにかく無事でよかったわ」後ろからポーラも言う。「いなくなった時は一瞬どうなることかと思ったけど。プーも、どうもありがとう」
「あれ、二人とも、もう会ってたの?」
「え? うん」ネスは頷く。「朝、ジェフがいなくなってて俺たちがあたふたしてたときに、急にテレポートで現れて来てさ。『俺はお前の下僕だ』とか言っちゃって……。何だと思ったけど、仲間だって聞いてなんか納得しちゃったよ」
 ぼくがプーの方を振り向くと、目が合った。プーは静かに微笑む。
「そういうことだ」
「でも、どうしてぼくの場所が分かったんだ?」
「まぁそれはあとで話すさ。とにもかくにも、これでようやく全員そろったわけだ」
 言われて、ぼくはぐるりとみんなを見渡す。ネス、ポーラ、プー、そして、ぼく。……そうだ、世界を救う選ばれし運命の子どもの数は、4人。これでようやく、全員そろったのだ。
「さて、これでやっと本題に入れるというわけだが……」
 一呼吸置いて、プーがまた口を開く。
「本題?」
「あぁ。これまでに起こった事と、これからの事について」
 言われて、ぼくたちは顔を見合わせる。プーはそれに答えるように、
「メロディはどれくらい集まってる?」
「えっ? ……あぁ、はいはい。そういえばそういうこと話し合ってなかったね。ちょっと待ってて」
 ネスが慌ててリュックから音の石を探り出し、差し出す。プーはそれを受け取って手の中で軽く観察すると、やがて「ふむ、少々取りこぼしがあるな」と言った。
「えっ、そんなの分かるの」
「おいおい」プーは笑う。「『自分の場所』の位置ぐらい、ちゃんと把握しておけよ。『未来からの使者』からなにも言われなかったのか?」
 プーの言葉に、ネスはふるふると首を振る。その瞬間、プーの表情がぴたりと固まり、怪訝な顔をしながらぼくらの方を見た。そして、彼はネスの顔に向かって手を伸ばし、額に彼の手のひらをぴたりと当てた。
「なっ、何何?」
「待て。いま記憶を読んでる」
 プーが言い、ネスが「え」と「お」と「げ」の中間くらいのうめき声を上げた。30秒くらいプーはじっとしていたが、しばらくして手をはずし、再びため息をつく。
「……どうやら、思った以上に何も聞かされてないらしいな」
「そういうのって最初に聞かされるもんなの?」と、ぼく。
「当たり前だ。この世界中を闇雲に探せ、というほうが無茶な相談だろう」
 なるほど確かに、とぼくは頷く。
「行こう」プーが言う。
「行くって、どこへ?」
「お前たちのよく知っている場所だ。取ってないメロディを回収しに行くぞ」
 そう言うと、プーはぼくたちにお互い手を繋ぐよう求めた。なんだかよく分からなかったが、とりあえず促されるままに3人でそれぞれサークルを作るようにお互いの手を握ると、プーは再びネスの額に手を当て(ネスはまた戸惑ったが、今度はもう何も言わなかった)、目を瞑り、それから叫んだ。
「PKテレポート・β!」
 その瞬間、視界がぐにゃりと歪む。



 周囲の温度が急激に冷えて行くのを感じた。そしてそれと同時に、湧き上がるようにして周りの雑踏の音が聞こえてくる。いつの間にか、ぼくたちはあのフォーサイドのモノトリー・エンパイア・ステート・ビルの前にそろって立ち尽くしていた。ぼくたちは、突然の周りの環境の変化に目を疑う。行き交う人々はぼくらなどには目もくれずに、何の変わりもなくぼくらの脇を通り過ぎていく。
「こっちだ」
 そう言ってプーはぼくらをあごで促すと、やがてすたすたと何処かに向かって歩き出す。ぼくらは慌ててプーの後を追う。
 プーが向かったのは、フォーサイドの中央にある噴水広場の前の、大きな博物館だった。プーは建物の裏へと回ってゆき、芝生の庭をザクザクと横切ってきょろきょろと何かを探しているようだったが、ふと庭の一点で立ち止まった。ぼくらが駆け足で追いついて見ると、プーの足元には何故かマンホールが設置されていた。
「この中だ」
「ええっ! 嫌よ!」プーの言葉に、ポーラが言い返す。「マンホールの中ってつまり、下水ってことじゃない!」
「しかし、そんなことを言っていても始まらん。なんだったら残っていてもいいが、どちらかと言えば付いてきて欲しくはある」
「いいじゃん、行こうぜポーラ」とネスが促す。
「……」
「マスクくらいなら用意できるけど」とぼく。
「みんな行く気満々なのね……いいんだけど」
「別に満々ってワケじゃあ」
「じゃあ行こう。とにかく時間がない」
 プーがそう言い、それから向き直って、マンホールに向かって何事か念じる。するとマンホールのふたがガコン、と軽く浮き上がって外れる。ぼくらはおお、と驚きの声をあげた。

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