話を要約すると、つまりはこういうことだ。
 ネスが旅を始めて少し経ったあたり(第1の『自分の場所』、ジャイアント・ステップで最初に音の石に音を記録したあたり)で、近くのホテルで休んでいたネスは、ぼくと同じようにポーラからのテレパシーを受けとる。ポーラとの最初のコンタクトだ。ポーラはツーソンの街でギーグに操られた手下たちによって拉致されてしまっていて、ネスが地球を救う仲間だと予知夢で知っていたポーラは、仲間であるそのネスに助けを求めたのだ。偶然ツーソンに向かっていたネスはその声に反応し、一悶着二悶着あってなんとかポーラは助け出すことができたのだ。のだが、そのときポーラの拉致事件を陰で手を引いていた人物がいて――。
「じゃあ、それがさっきのポーキーだったってこと?」
「うん、そう」とネスは頷く。「あの時は、『なんでコイツがこんなところに』って思ったけど、今思えばきっとポーキーもギーグに操られていたんだと思う。ブンブーンの話だと、動物みたいにあまり知能が発達してなかったり、人間くらい頭が良くても心の根底が邪悪な人間はギーグの手にかかりやすいんだって。だから」
 心の『根底』が邪悪な人間。
「そこまで言うってことは、そんなにひどいやつだったのか。でも幼馴染なんだろ?」
「……それは言わないで」
 ネスは途端にいやな顔をする。相当嫌悪感があるらしかった。
「でも、おかげで思い出した」とネスは言う。「……ポーラをさらった手下たちのアジトの奥に、怪しげな像があったんだ。黄金でできた、なんか悪魔を象ったみたいな像。連中はその像の魔力によって操られてたらしいって聞いたんだけど、拉致グループのボスはそれを、……『マニマニの悪魔』って呼んでた」


 マニマニの悪魔


「うちに隕石が落ちてきたのと同じ頃に、近くの風変わりなおじさんが偶然近くでその像を掘り出したのが始まりなんだ。ぼくも一回だけ見た。あの像。でも、すごく怖かった。本当にすごく怖かった。あの像、きっと本当に何か特別な力がある。見つけたそのおじさんも何か変になってたし、野生の動物たちが変になってたのもきっとそのせいかも。ギーグそのもののせいかもしれないけど。たぶんポーキーがその魔力に気付いて、それを持ち出したんだ」
 そうなのかもしれない。きっとブンブーンの隕石が降ってきたのがはじまり、ということではなく、ブンブーンの方がそのマニマニの悪魔の発見の時期にあわせたて降ってきただけだったのだ。ブンブーンが殺されたりしなければ、きっともっと早くにその黄金のマニマニの悪魔は発見されていたのかもしれない。でも「たら」「れば」論を言っていても仕方がないというのは分かっていることだった。


「マニマニの悪魔にはきっと、人を魅了してギーグの意のままに操る、みたいな能力があるんだ。だから野生の動物たちとか、そこら辺の少数の人とかが変に暴走し始めてるんだと思う。きっと今回もそう。あのツーソンの事件の後、またマニマニの悪魔はどっかいっちゃったから、きっとそのとき逃げ出したポーキーと一緒に、このフォーサイドに流れ着いたんだと思う」
「じゃあ、やっぱりモノトリーさんが怪しいのかもしれないわね」
 ポーラが言う。確かにポーラの言う通りかもしれない。きっとモノモッチ・モノトリーは、ポーキーの持ってきたマニマニの悪魔に魅了され・力を得て、その魅了の魔力を利用して権力を拡大し、ポーキーを側近において規模を拡大してきたのだ。例のツーソンの事件がそうだったように。
 しかし、そのときネスの持っていた携帯が鳴って、話はまた変な方向へと進みだす。ドコドコ砂漠発掘現場のジョージさんからだ。


 交通量の多いゴールデン・ゲート・ブリッジの歩道を渡って、ぼくらは再びドコドコ砂漠の灼熱地獄の中に戻ってくる。相変わらず見上げる空は濃すぎるくらいの青だし、砂利や岩がごろごろしている赤土の砂漠の中に一本線を引くようにして延びるコンクリートの道路の先は、遠くの方で陽炎のようにゆらゆらと揺れている。
 道路沿いを歩いてしばらくすると、やがて例の発掘現場が見えてきた……と思ったら、何やらプレハブ事務所の横にわらわらと十数人の人だかりができているのをぼくらは発見する。事務所前の駐車スペースにも乗用車が何台か停められていて、ぼくらが何だ何だと思って近づいていくと、そのギャラリーたちの人だかりはどうやら発掘現場の洞窟の入り口を囲む形で、あーだこーだととが騒いでいるみたいだった。
「あっ、ネスさん!」
 ぼくらが発掘現場の前にたどり着いたとき、ちょうどプレハブの中から弟の方のチュージさん(さっきの電話の人だ)が、ガラガラガラと戸を開けて外に出てくる。「よかった、来てくれたんっスね!」
「チュージさん、どうかしたんですか? ジョージさんの方は?」
「実は、埋蔵金を発掘してたら、なんか変な化け物みたいなのが出てきたらしくて……」
「変な、ばけもの?」ネスは顔をしかめる。
「えぇ、なんでも巨大モグラらしくて」
 チュージさんにさらりと言われて、ぼくらは反射的に顔を見合わせる。トンズラ、モノトリーに続いて、今度は巨大モグラだ。ぼくらは「とっ、とにかくついてきてください!」というチュージさんに案内されて、ギャラリーを押しのけてとりあえず発掘した洞窟の中へと降りていく。
 洞窟の中に入ると急に闇の比率が増し、ぼくの目に一瞬チカチカと星みたいなものが見える。暗闇に目が慣れた頃に、壁に等間隔で取り付けてあったオレンジ色のライトが点く。そろそろ奥が見えてくる頃だ。
 洞窟は、ぼくがはじめに来たときよりももっと先まで続いていて、まぁ一本道だったから迷わずに済んだものの、ぼくはジョージさんとチュージさんの仕事振りの早さにちょっとだけ驚嘆していた。チュージさんに連れられて、オレンジ色のライトに照らされていてもまだ薄暗くて長い長い洞窟の通路を歩き、道幅も心なしか段々と狭くなってきて、ぼくらがまだ着かないんだろうか?と思い始めたとき、通路の途中で壁に寄りかかって座り込みながらタバコをふかしているジョージさんを発見する。早歩きで近づいてくるチュージさんとぼくらに気がついて、安全第一ヘルメットに無精髭のジョージさんは軽く片手を挙げて挨拶した。
「よう、思ったより早かったなぁ。話は聞いたか?」とジョージさんは言う。ぼくが頷くのを見て、ジョージさんは再び話し始める。「ここんとこまでラクショーで穴を掘ってきてさ、迷路をめっけたんだけどね。ばーけもんがうーんと出てきて、先に進めなくなっちまったんさね」
「迷路なんてあったんですか?」
「あぁ。洞窟を掘りつづけてたら急に開けたところに出たんだ。そこに、でっけーモグラが……どうやら5匹もいる!」
 5匹! ぼくらは目を丸くする。
「そのモグラの化け物が、その迷路を作ったのか、それとももともと誰かが作った迷路にモグラが住み着いたのか、それはわからねぇ。化け物さえのしちまえばもっと先まで進めるんだいね。俺ぁ、胃がいてぇよ。悩んじまってさ」ジョージさんは、手に持ったままだったタバコを再びくわえ、しばらくしてから口を離して、ため息をつくように煙を吐き出す。「フー、まいったいねぇ」
「じゃあ、ぼくたちがそのモグラたちを倒せばいいんですね」
 ぼくが言う。ジョージさんは一瞬ピタッと動きを止め、それからぼくの体を上から下までサッと眺め見て、それから噴き出す。
「まぁ気持ちは分かるけどな、できねぇもんはしょうがないさね。いま対策を練ってるところだけども――」
「冗談じゃありません。本気です」
 ジョージさんは顔をしかめる。ぼくは後ろのネスとポーラをちらりと眺めやる。ネスはコクリと頷く。
「化け物が出てるってことは、」とネスは言う。「もしかしたらギーグの仕業かもしれないな。そうじゃないとしても、ジョージさんたちには良くしてもらったから」
「『マニマニの悪魔』とは何か関係あると思う?」
「さぁ……」とネスは首をひねる。「でも、何か恩返ししたいからなぁ。とにかく行ってみよう」
 ジョージさんとチュージさんはまだ呆然としている。

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