パパへの電話




 RRR…RRR…


 あ、パパだ。
 えーと、次のレベルまで、ネスは…



 …ん、どうしたネス。元気ないじゃないか。


 いやいや、パパには分かるぞ。
 こう見えても、自分の子供の健康状態くらいは声で分かるもんだ。
 ほら、何があったか話してみなさい。パパに。


 うーん…そんなに言いたくないのか?
 じゃあパパが当ててみようか。



 …ズバリ、好きな子が出来たんだろ。



 …。
 ……。
 ………。
 え、図星ですか。
 マジですか。そうでしたか。



 …参ったな、冗談で言ったのに…。


 あ、いや独り言だ。気にしないでくれ。


 …そんなことより、誰なんだ、その相手というのは。
 この際パパに全部話してしまいなさい。どーんと。誰にも言わないから。



 …ん、ポーラ?
 …あぁ、前に言ってた、あの一緒に旅してるという…。
 そうか、彼女が…。


 …あ、いやいや、別にそういう意味で言ったわけじゃなくて。
 若いうちにそういうのは経験しておくべきだぞ。うん。
 いや、だからそういう意味ではなくてだな。



 …む、それじゃあ、告白とかはするのか?



 …なんだその沈黙は。

 思いとどまってるのか、やはり?


 …ふむ、そうか。
 いやいやいや、分かるぞその気持ち。パパはとってもよく分かる。
 そうだよな、そうなんだよなぁ…。



 …でもな。いいかネス。
 確かに、言うのが怖いと言うのも分かる。
 言わないでそのままにしておくのも、道としては確かにアリだ。
 今の関係が壊れるくらいなら、いっそそのままにしておくのもいい。


 しかし、告白するのもまた道だ。
 

 …そうだな。確かにハタから言うのだけは簡単だな。
 すまん、パパが悪かった。






 …よし、ちょっと面白い話をしてやろう。




 …あるところに、1人の青年がいました。
 その青年は、大学を卒業したあと、ある会社に無事入社したんだ。

 最初は、慣れない事はたくさんあった。
 上司とソリが合わなかったり、自分の仕事が失敗続きだったり。

 だけどある時、その青年は、1人の女性と出会うんだ。
 その女性は青年と同期に入社した子で、違う部署で働いていたんだ。
 たまたまその2人が、ある時、偶然にも知り合いになったんだ。
 2人は、互いに惹かれあって意気投合し、やがて親友になった。
 時々酒を飲み交わしたり、遊びにいったりするようになった。

 …そして、青年はふと気付くんだ。

 自分がその女性に対して、友情とは違う感情を抱き始めていたことに。

 彼女ともっと一緒にいたい。
 彼女にもっと触れたい。
 彼女ともっと触れ合いたい。
 そんな思いが、明らかに友情以上の感情が、彼の胸に湧き上がってきたんだ。

 青年は戸惑った。
 自分の中で、彼女を見る目がすっかり変わってしまった。
 会話を交わすのも、目を合わせるのすら気にしてしまうから。

 この気持ちを彼女に伝えるべきか、青年は悩んだ。

 彼は言ってしまいたかった。
 しかし、彼女は自分の事を、そうは思っていないだろう。

 自分の思いを彼女に言って、そのあとはどうなってしまうんだろう?
 もし自分の答えを否定されてしまったら?
 今までの関係が壊れてしまうとしたら?
 …青年にとって、それはすごく辛いことだった。


 …青年は散々迷ったが、ついに決心を固めた。
 言ってしまおう。
 たとえそれが断られてしまっても、彼女は笑って許してくれるだろう。
 また、元の関係を築き上げてくれるだろう。
 そう考えた…もちろん、確証はなかったけどな。


 そして、次に彼女と会った日の夜、彼は思い切ってこう切り出した。

「実は、折り入って、君に話があるんだ」

 すると、彼女はこう答えたんだ。

「…私もよ」


 …つまり、2人は最初から両思いだったんだ。


 そのあと二人は結婚して、彼女は家庭に入って、二人も子供が生まれた。
 そして、いつまでもその家族は、幸せに暮らしましたとさ…。



 え、なに。
 じつはその夫とか息子とかが、家から出ていったりしてないかって?
 …それは、まぁ秘密だ。


 …まぁ、つまりはそういうことだ。
 要はやってみなきゃどう転ぶか誰にもわからない、ってことさ。


 少しは元気でたか?


 …そうか、それはよかった。



 …ん、もうこんな時間か。
 今日は少し喋りすぎてしまったみたいだな。

 そうか。
 パパももう今日は休もうと思ってたところだ。
 冒険の記録はつけといたよ。
 おやすみ…。



 ネスもママに似てがんばり屋だなあ。無理するなよ。



 ガチャン、ツーツーツー




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